歴史教科書・訂正申請に関する資料2

政府答弁受けて、教科書の「従軍慰安婦」記述、5社が訂正したとのこと。 

「従軍慰安婦」教科書会社が訂正  文科省、記述を承認  2021/9/8

■この件少し突っ込んでおきます。事実関係と資料をこちらに順次掲示します。

1.発端となった衆議院での質問答弁経過情報から。

【 質問 】
「従軍慰安婦」等の表現に関する質問主意書
提出者名 馬場 伸幸君
会派名 日本維新の会・無所属の会
令和三年四月二十七日受領  答弁第九七号

(前文省略質問事項のみ転載)
一 政府として、平成五年八月四日の河野官房長官を継承するのか、改めて政府の基本的立場を示されたい。※
二 政府はなぜ平成五年八月四日の河野官房長官談話において、「従軍慰安婦」という用語を使用したか。
三 「従軍慰安婦」という用語に、軍より「強制連行」されたかのようなイメージが染みついてしまっていると考えるが、近年、政府としてこのような「従軍慰安婦」という用語を使用していない理由は如何。
四 今後、政府として、「従軍慰安婦」や「いわゆる従軍慰安婦」との表現を用いることは、不適切であると考えるが、政府の見解は如何。従軍慰安婦という用語を使用しない場合であっても、例えば、軍や軍からの要請を受けた業者との関係を明らかにせずに、単に女性たちが「慰安婦として従軍させられた」といった表現を用いる等、「従軍」と「慰安婦」を組み合わせた表現を使用することも不適切であると考えるが、政府の見解は如何。
右質問する。

貼り付け元 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a204097.htm

2.これに対する回答です。

【 回答 】
内閣衆質二〇四第九七号b 令和三年四月二十七日

内閣総理大臣 菅 義偉
       衆議院議長 大島理森 殿
衆議院議員馬場伸幸君提出「従軍慰安婦」等の表現に関する質問に対する答弁書

一について
 政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話(以下「談話」。)を継承しているというものである。
二から四までについて
 平成四年七月六日及び平成五年八月四日の二度にわたり公表された政府による慰安婦問題に関する調査において、調査対象としたその当時の公文書等の資料の中には、「慰安婦」又は「特殊慰安婦」との用語は用いられているものの、「従軍慰安婦」という用語は用いられていないことが確認されている。もっとも、談話発表当時は、「従軍慰安婦」という用語が広く社会一般に用いられている状況にあったことから、談話においては、「いわゆる」という言葉を付した表現が使用されたものと認識している。
 その上で、政府としては、慰安婦が御指摘の「軍より「強制連行」された」という見方が広く流布された原因は、吉田清治氏(故人)が、昭和五十八年に「日本軍の命令で、韓国の済州島において、大勢の女性狩りをした」旨の虚偽の事実を発表し、当該虚偽の事実が、大手新聞社により、事実であるかのように大きく報道されたことにあると考えているところ、その後、当該新聞社は、平成二十六年に「「従軍慰安婦」用語メモを訂正」し、「『主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した』という表現は誤り」であって、「吉田清治氏の証言は虚偽だと判断した」こと等を発表し、当該報道に係る事実関係の誤りを認めたものと承知している。
 このような経緯を踏まえ、政府としては、「従軍慰安婦」という用語を用いることは誤解を招くおそれがあることから、「従軍慰安婦」又は「いわゆる従軍慰安婦」ではなく、単に「慰安婦」という用語を用いることが適切であると考えており、近年、これを用いているところである。また、御指摘のように「従軍」と「慰安婦」の用語を組み合わせて用いるなど、同様の誤解を招き得る表現についても使用していないところである。引き続き、政府としては、国際社会において、客観的事実に基づく正しい歴史認識が形成され、我が国の基本的立場や取組に対して正当な評価を受けるべく、これまで以上に対外発信を強化していく考えである。

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b204097.htm

■「答弁」のつっこみどころ

1.菅総理の答弁の問題点1(答弁の[一]は略。先の「河野談話」をご覧ください)

  「2」以下の回答と合わせると、まさに「矛盾」ホコとタテ、矛盾極まりない。論外。

・答弁への突っ込みその1

 政府による慰安婦問題に関する調査において、調査対象としたその当時の公文書等の資料の中には、「慰安婦」又は「特殊慰安婦」との用語は用いられているものの、「従軍慰安婦」という用語は用いられていないことが確認されている。(菅答弁)

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a204097.htm

「調査対象としたその当時の公文書等の資料の中には、…「従軍慰安婦」という用語は用いられていないことが確認されている。」と答えています。この回答に呆れました。

 当たり前です。「当時の人が」しかも「公文書」で、「従軍慰安婦」という用語を用いるわけはないでしょう。「公文書」ということは、当時の政府関係者か軍人の文書のことでしょう。そこで公然と「従軍慰安婦」と記すわけがありません。歴史用語は、のちの時代の認識や評価によって用いられるものです。例えば、「鎌倉幕府」という用語は、「当時の公文書や資料の中には」現在のように政府の形体を示す言葉としては出てきません。当時の言葉では、「将軍府」などでしょう。「幕府」という語は建造物そのものを指すことはあったようですが。

 ということで、何が言いたいかというと、歴史用語とは「当時用いられたかどうか」は問題になりません。後世の評価の中で用いられるようになるものです。

・突っ込みどころその2

 用語の使用の根拠として「吉田清治氏を上げ、彼の発言、「吉田清治氏の証言は虚偽だと判断した」こと等を用語使用の誤りとして、「虚偽」の根拠にしています。確かに吉田氏の発言は虚偽だったということは明らかになっています。しかし、彼は歴史研究者ではありません。

■歴史学者の安丸良夫氏がこの点について、簡潔に指摘しています。

もともと、「従軍慰安婦」の存在は知られていたが、 吉田の著作が「従軍慰安婦」「強制連行」の典型的なイメージを作り出すとともに、その後「この書物の記述が事実でないことが明らかにされて、『強制連行』をめぐる事実認識が重要な争点となる原因をつくった」とは言える。

(しかし、一方で)「歴史認識の問題としては、歴史修正主義の認識方法の典型的な事例が示されている。」「批判的な歴史認識の全体像のなかから、実証の弱そうな論点をひとつだけとりだして、そこに批判を集中し、そのことによって問題の全体を消去させようとする。」

安丸良夫「従軍慰安婦問題と歴史認識」 月刊『学術の動向』2009年3月号、日本学術会議SCJフォーラム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/14/3/14_3_3_76/_article/-char/ja/

 それほど長くはありません。上記サイトから読めますのでぜひ。

次回は行政手続きの角度から。(続く)