杉並区の情報開示問題の実態②

★ある杉並区民の方かからの報告その2です。

 私は2年前に、情報公開非公開の決定を不服として審査会に申し立てをした区民ですが、その答申が2022年4月11日に送られてきました。この件の経緯については、2月19日のブログで報告しましたが、簡単な経緯と今回の答申の内容を報告します。

1、経緯

  • 2,019年秋に杉並区障害者施策課職員から聞いたところによると、同年8月15日に校長・教育部署職員から高円寺小中一貫校特別支援学級についてのヒアリングを行ったとのことであった。
  • 私はそのヒアリングの「会議説明用」と題された文書(A4、1枚)を見たので、その元になった記録を見せてほしいと言ったが「それは見せられません」とのことであった。
  • そこでこの記録の情報公開を請求した。結果は「非公開」、理由は「作成していない」であった。(2019.12.13)
  •  A4、1枚の簡単な会議用の報告を作成しているのに、その元になったヒアリング記録が存在しないことは、考えられない。 
  •  公的に行われたヒアリングについて、「日時、参加者名が書かれていない簡単な会議説明用の文書が唯一の記録であり、これ以外の記録は存在しない」ということであれば、障害者施策課は職務遂行責任を果たしていない。
  • 「記録を作成していない」と言えば公開しないで済む、となれば情報公開制度は骨抜きになるとと思い、非公開処分に対し不服申し立てをした。(2020.3.6)

2、審査会答申の結論

  棄却すべきである。

3、審査会の判断~「棄却した理由」

 以下に答申の「審査会の判断」の部分を転記します。
「実施機関である杉並区長が、公開請求のあった情報について存在しないものとして非公開決定を行った理由に不合理な点はない。」
 この点、請求人は、課として行ったヒアリングについて、記録を作成していないということはあり得ないと理由を述べるが、聞き取りの概要書しか作成しない聞き取り調査は、よくなされるものであり、記録が作成されていない旨の理由は採用できない。(下線、筆者)
 第2に、請求人は、概要書を作るには、元になった記録がある旨を主張するが、前述したとおり、概要書しか作成していないことはよくあることである。(下線、筆者)
 第3に、また、請求人は、公文書が随時廃棄文書には当たらない旨を述べるが、作成されていない記録には文書保存年限の規定は適用する余地がない。
 第4に、請求人は、概要書に、ヒアリングを開催した日時等の記載がないことは、そのこと自体が職務遂行責任を果たしているとはいえない旨を主張するが、当審査会は職務遂行が適切になされていたかどうかの審査権限は有していない。(下線・筆者)
 以上が審査会の答申の、「審査会の判断」(本件を棄却した理由)の部分です。

4、上記の「審査会の判断」に対する批判

この「審査会の判断」については2つの問題点があると考えます。

(1)一つは、ヒアリングについて請求人が見た唯一の文書である「9月5日 会議説明用(障害者施 策課)」という文書を「概要書」と書いていることです。更に、請求人が使用しない「概要書」という語句を、請求人の主張を紹介する文中で使用し、請求人があたかも「概要書」という語句を使用しているかのような書き方をしていることです。
 これは「すり替え」です。なぜならば、たとえ「概要的」に書かれたものであっても、「会議説明用文書」と記録としての「概要書」では、その目的も内容も異なるからです。
 区民参加の会議に出される「会議説明用」文書には、概要的であるか否かにかかわらず、聴き取り対象者の氏名を書くことはできません。一方、課の記録としては、「概要書」であっても「聴き取り対象者の氏名、日時」を書くことは必須です。
 以上のような違いがあるので、請求人は、「簡単な『会議説明用文書』以外に、日時・聴き取り対象者の氏名を書いた記録があるはずだ」と主張しています。
 それに対して審査会は、「概要的な会議説明用文書」と「課の記録としての概要書」を同一視して「聴き取りの概要書しか作成しない聞き取り調査はよくなされるものであり、記録が作成されていない旨の理由は採用できない」と書いています。目的も内容も異なる二つの文書を同一視することにより、「すり替え」を行っています。

 上記のように、「概要的な会議説明用文書」と「課の記録としての概要書」とは、目的も内容も異なるので、請求人は二つの文書を同一視するようなことはしません。しかし審査会は、請求人の主張を紹介する文中で「会議説明用文書」と書くべきところを、次のように「概要書」と書き換えています。「第2に、請求人は、概要書を作るには、元になった記録がある旨を主張するが」の下線部分です。これは、請求人の主張を異なって伝えることで、してはならないはずです。
なぜ、書き換えたのでしょうか。
 もし請求人が使った語句を使うと「請求人は『9月5日 会議説明用文書を作るには元になった記録がある』と主張していることに対し、審査会は『概要書しか作成していないことはよくあることである』(から請求人の主張には合理性がない)」となります。これでは請求人が言っている文書と審査会の言っている文書が異なり、請求人の主張を否定したことにはなりません。
審査会は「概要的な会議説明用文書」と「課の記録としての概要書」を同一視して論を進めましたが、請求人もこの二つを同一視しているように書かないと、審査会の「第2に・・・」の判断はなりたたないのです。これは、審査会の論理の破綻を示しているのではないでしょうか。
 
 「第4に」のところでも、請求人の主張を紹介する文で「概要書」と言う語句を使用していますが、これも不適切です。

(2)「審査会の判断」の二つ目の問題点は、「第4」の判断、「当審査会は職務遂行が適切になされていたかどうかの審査権限は有していない」(下線、筆者)についてです。
 請求人は、「ヒアリングの記録としては「会議説明用文書」しかなく、それ以外の記録を作成していないとすれば、この文書にはヒアリング日時、聴き取り対象者の氏名が記載されていないので、職務遂行責任を果たしていないのではないか」と主張しました。
それに対し審査会は、上記下線部分のような判断をしました。
 この判断について「審査会の審査権限には限界があるが、行政不服審査でも監査でも職務改善に向けて『付言』を行う運用もあり、過去にはそのような付言がつくことで実務が変わることもあった」という意見を聞きました。
 確かに、と思いました。課として行ったヒアリングについて、日時も聴き取り対象者の氏名も記載されていない「会議説明用」文書しか存在していないということを、審査会は認定したわけです。
審査会は、このような杜撰な職務を行っていることを知ったのですから、権限がなかったとしても、「付言」というような形で注意を喚起することは必要なことではないでしょうか。

5、その後について

 請求人の主張を紹介する文中で、請求人が使用しない語句を使用することは、請求人の主張を正確に伝えないことなので、下線部分の「概要書」を「会議説明用文書」に変えてくれるよう、ダメ元かもしれませんが、審査会に手紙をだしました。