活動の記録

3月15日 「新しい歴史教科書をつくる会」の混乱と、教育長の辞任についての声明

2006年3月15日
杉並の教育を考えるみんなの会
杉並区教育委員会は、昨年夏、区内外からの批判にも関わらず、「新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)」編・歴史教科書を採択しました。
その歴史観が国内外から批判を受けた上、主たる執筆者が歴史学者でない*ため、検定後にも重大な誤りが多数指摘され、全国の99.6%が退けた教科書です。区民には大きな不安と杉並の教育への疑念が巻き起こっていますが、今年に入ってさらにそれを増大させる事態がおこり、杉並区教育委員会が子どもたちの教育に責任が持てるのか、区民の信頼を取り戻せるのか、重大な岐路に立っています。

主たる執筆者の藤岡信勝氏は教育学者、西尾幹二氏はドイツ文学者で多くの歴史学者から歴史認識、及び歴史事実の記述について多くの間違いが指摘されています。

1,「つくる会」が内部分裂!

新聞各紙で報道されていますが、「つくる会」は、1月16日に創立メンバーである名誉会長西尾幹二氏が辞任したのに続き、2月27日に八木会長、藤岡信勝副会長が解任され、さらに宮崎正治事務局長が解任されました。その後、会長にはBMW(ドイツ車メーカー)東京社長であった種子島経氏(70歳)が会長に就任、しかし、事務局長、副会長は不在とのことです。今までにも、西尾幹二氏が「歴史教科書を書いたが書き換えられ、内容に責任を持てない」と発言したり、小林よしのり氏(漫画家)が退会するなど、何度も泥仕合のような内紛が報じられましたが、今回は歴史教科書筆頭執筆者である藤岡氏も解任されるなど、「つくる会」の崩壊ともいえるものです。
中学生という多感な時期に、未来のある、大切な杉並の子ども達が学ぶ教科書が、こんな混乱、不祥事を起こしている団体の教科書であることは知性、感性の面で大きなリスクを背負わされるのではないかと危惧しています。このような団体がつくった教科書を無謀にも採択した杉並区教育委員会、教育委員の責任はたいへん重大です。

2,一度も検証なく責任者が辞職!?

「つくる会」教科書採択に重大な一票を投じた納冨教育長が辞表を提出したと聞きました。
その理由は「教育立区としての杉並の今後の展開は(自分の)資質・力量をはるかに超えている」ためとしています(3/4付毎日)。
その自覚があるならば、なぜ、99.6%の地区が選ばなかった「つくる会」教科書を選んだのでしょうか。その事が今後、子どもや家庭、杉並の教育にどのような矛盾・混乱をもたらすことになるのか、子どもの学力はつくのか、受験は大丈夫なのか等の不安が高まっているなか、杉並教育行政のトップでありながら、何の検証もせずに辞任するのは、全くの無責任です。自分のまいた種を刈り取らないという無責任を子どもに教えるのでしょうか。
このような無責任な行為を認める杉並区教育委員会、杉並区長の責任は重大です。メンバーを替えればすむことでは全くありません。

3,「日の丸・君が代」を突出して推進する都教委の指導部長が後任!?

山田区長は納冨教育長の後任として東京都教育委員会指導部長井出隆安氏を推薦すると伝えられています。東京都教育委員会(都教委)は白鴎、両国、小石川等、中高一貫校、さらにろう学校、養護学校に「つくる会」教科書を採択し、さらに「日の丸・君が代」を突出して都内公立学校に強制しています。その都教委で井出氏は管理指導主事を勤めてきました。
昨年からは「日の丸・君が代」を教職員、生徒に直接的に強制する担当部署のトップである指導部長を勤め、平成18年2月10日付で「入学式・卒業式等の適正な実施について(通知)」を発しました。教師、及び、子ども達の思想・良心・信教の自由を侵害するもので憲法19条、20条に違反し、さらに、1999年の「国旗、国歌法」制定時に文部大臣が「児童や生徒の内心にまで立ち入って強制しようとするものではない」と発言したことにも逸脱する、たいへん問題のある内容です。
2004年1月30日に「国連子どもの権利委員会」が最終所見を出しましたが、その中で都教委の施策について重要な勧告をしています。さらに、2005年秋に副委員長が都教委を訪ね意見を述べています。ともに、東京都教育委員会の施策が子どもの権利条約の「子どもの意見表明権、子どもの思想・良心・宗教の自由、教育、余暇及び文化的活動」の項目に違反していると指摘しています。教師、子どもへのモラルハラスメントとして国際的に問題とされているのです。
「つくる会」教科書を採択し孤立を招いている杉並区で、このような施策を推進する人物を教育長に据えることを、良識ある区民は望んでいません。杉並区が真に教育立区をめざすなら、地方分権のなかで保護者、教職員、区民の意見を活かしながら、地域の子ども達の教育を進めていただきたいと思います。
次々とすすめられる「教育改革」に学校、子ども、保護者、地域は振り回されている上、さらに都教委直轄の教育行政が持ち込まれるとしたら、杉並の子ども、杉並の教育は混乱の極みです。
杉並の教育の自治を守るために、井出隆安氏は杉並区教育長にふさわしくありません。