杉並区教育委員会が8月12日に行った、「新しい歴史教科書をつくる会」が編纂した扶桑社版中学校歴史教科書(以下、「つくる会」歴史教科書という)の
採択について、厳しく抗議し強く撤回を要求する。それは、「つくる会」歴史教科書が歴史を歪曲し侵略戦争を肯定するという、教科書としてはまったくふさわ
しくないものだからであり、また杉並区教育委員会による採択方法などにも重大な問題があるからである。
12日の教科書審議は、前回4日の審議と同様に「つくる会」教科書の「戦争」の扱いが議論となり、とりわけアジア・太平洋戦争を「大東亜戦争」と記述し、
「日本の将兵は敢闘精神を発揮を発揮してよく戦った」と記述している一方で、戦争の悲惨さやアジア諸国民の苦しみが書かれていないことが問題となった。こ
れに対して、こともあろうに教育長は、「よく戦った」を多面的に生徒に考えさせればよい、要は教師の力量などと発言。さらには、平和をめざす他社の教科書
の記述を「理念的」と批判し、「これまでの歴史を見れば将来も戦争はなくならない」として、そうした現実をふまえて記述しているとして「つくる会」歴史教
科書を推薦したのである。教育委員の一人も、「平和と百回言えば戦争はなくなるのか。」などの発言をした上で同調した。こうした中で結局は3対2という多
数決で「つくる会」歴史教科書が採択をされたのである。
このような意見が教科書採択の理由になることは、憲法・教育基本法に対する重大な背信行為である。断じて認められない。しかも審議が尽くされたといえない
中で、多数決による採決をした方法も極めて問題である。審議では何度も「どの教科書も検定を合格した」ということが言われた。われわれは憲法をないがしろ
にし、歴史の真実を教えない「つくる会」歴史教科書が検定に合格したことを到底認めるものではないが、それでも「どの教科書も検定を合格した」というので
あれば、教育委員の意見が分かれた教科書でなく、どの教育委員の意見も一致する教科書の採択を行うべきではないか。
また、最近になって杉並区教育委員会事務局が、すでに提出済みの教科書調査資料から、「つくる会」歴史教科書の記述について校長を通して教師に書き換えを
命じたという事実も明らかになっている。しかも4日の審議で「(扶桑社の歴史教科書は)戦争に向かう」と批判した教育委員に対しては、「つくる会」から訴
訟をちらつかせた「公開質問状」までつきつけられるということまで起きている。これは、まさに教育基本法第10条が厳しく禁じている教育への「不当な支
配」そのものではないか。
杉並区は原水爆禁止運動の発祥の地として、全国に平和や核兵器廃絶を求める運動を発信し続けてきた。こうした歴史と伝統をもつ杉並区の中学校で学ぶ子ども
たちの教科書が、神話に3ページ、日本海海戦に1ページ使いながら、原爆はたった2行しか書いていない、「つくる会」歴史教科書であってはならない。われ
われは、こうした理由から今回の杉並区教育委員会が行った、「つくる会」歴史教科書の採択に対して、以下のように要請する。 |