資料室<2005年「つくる会」歴史教科書採択に対する抗議文・ 要請文>

執行委員会声明

杉並区の「つくる会」歴史教科書採択に満身の怒りをもって抗議し、決定の白紙撤回と採択のやり直しを要求する!
 杉並区教育委員会は、継続審議になっていた社会科の中学校教科書について審議し、「つくる会」(扶桑社版)歴史教科書の採択を決定した。この決定に対し、杉並区教職員組合執行委員会は満身の怒りをもって抗議し、その決定の白紙撤回と採択のやり直しを強く要求する。我々は今後、扶桑社版歴史教科書の採択の不当性を徹底的に糾弾するとともに、いかなる弾圧・強制にも屈せず教育者の良心にかけて歴史の真実を子どもたちに伝え続けることを宣言する。

今回の杉並区の決定は、「つくる会」教科書を強力にバックアップしてきた山田杉並区長の強い政治的圧力のもとでの決定であったことは間違いない。韓国ソウル市ソチョ区に交流訪問している杉並区の中学生が帰るその日まで、決定を延期するという姑息な手段を使ったことは、山田区長の思惑が強く反映されたものに他ならない。その圧力に負けて「戦争は残念ながらなくならない。大阪書籍、帝国書院は理念的で、扶桑社が現実に即している。強いて順位をつけるなら、1位扶桑社、2位大阪書籍、3位帝国書院。」という発言をし、決定に導いた納冨教育長の責任は極めて重大である。「扶桑社の歴史教科書は、戦争を賛美しているとは思わない。」として扶桑社を推したことは、私たち教育現場の統括責任者である教育長として、到底許されるものではない。

そもそも教科書採択は、現場教職員の意見が正当に反映されるべきものである。今回は、調査報告書の表現にまで書き換えを指示した事実が判明した。教育現場で働くものにとってはもちろんのこと、子を持つ親にとっても、戦争を賛美し、歴史的真実をねじ曲げて、日本にとって都合のいいように解釈する扶桑社版歴史・公民教科書を支持するものはほとんどいない。中学校社会科教員として、不適切な教科書を、「不適切」と表現してなぜいけないのであろうか。このようなやり方で現場の意見を封殺し、歴史教科書を採択した杉並区教育委員会に強く抗議するものである。

さらに扶桑社は、数度にわたる文部科学省の指導を無視して、検定申請書(白表紙本)を教科書選定関係者に配布するという悪質なルール違反を行っている。扶桑社版歴史教科書の代表執筆者である藤岡信勝「つくる会」副会長は、8月4日の杉並区教育委員会の安本教育委員の発言を取り上げて「公開質問状」を出し、脅迫まがいの圧力をかけるという暴挙を行った。さらに藤岡氏は8月12日の教育委員会を傍聴し、扶桑社に反対する委員に直接圧力をかけたのである。執筆者自らが採択に圧力をかけるこれらの行為は、採択の中立性を確保する「採択規則」違反である。区内学校の玄関等に「教科書関係者お断り」といった貼り紙を貼らせている杉並区教育委員会が、このような不法行為をなぜ黙認したのであろうか。このようなルール無視の採択は、断じて許されるものではない。

市区町村で大田原市に続いて2番目、都内では最初となる扶桑社版歴史教科書の採択は、杉並区の犯した歴史の汚点として深く刻まれるであろう。「つくる会」歴史教科書は、アジアに対する侵略の歴史を「大東亜戦争」としてアジア解放の正義の戦争であったかのように描き出し,韓国併合を正当化するなど、日本の加害責任を覆い隠すだけではない。広島・長崎の原爆や東京大空襲についてほとんど取り上げていないことに端的現れているように、戦争の被害の事実もほとんど伝えていない。例え「反面教師」としても、このような歴史教科書を使うことは、教育者の良心が許さない。

今後は「教科書通り教えているか」という指導チェックが、東京都及び杉並区教育委員会によって開始されることが想定される。杉並区教職員組合は、勇気ある行動に立ち上がった仲間を守り、杉教組に加えられるであろう不当な弾圧に断固屈せず、組織をあげて闘い抜くことを、ここに宣言する。
2005年8月12日
杉並区教職員組合執行委員会